重松清「ナイフ」

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

別に新刊でもなんでもなくて、絶薬に重松さんが出てたのに興味を持って適当に手に取った一冊。
「いじめ」をテーマにした短編集。

ワニとハブとひょうたん池で
ナイフ
キャッチボール日和
エビスくん
ビタースィート・ホーム

の全5編。すべていじめの話。
主人公はいじめられっこだったりその父親だったり、その幼馴染でいじめの傍観者だったり。

全体的にこの作家の筆の癖なんだろうけど、淡々とした語り口で物語が進んでいく。いじめられっこという被害者の視点で淡々と進んでいくので、なんだかうすら寒いものまで感じます。
まったく初めて読む作家さんなので楽しみ方を見出すという楽しみもあったのですが、この作家の場合はオール一人称の曖昧系で話が進んでいきます。自分たちが心の中で普段考えていることを文章の体裁として整えるとなる感じで、非常に読みやすく、ハマりやすい作家さんでした。

短編集ですから、いじめを取り扱っているといっても事の起こりから万事解決までっていう学校ドラマみたいな展開にはならずに、作品ごとに切り取る部分は違うのですけど、いじめのどこかのポイントを切り取ってそこでの主人公や家族の変化を見せています。
そうすることで、「家族」というものもこの作家さんは語りたかったのかもしれません。
だから逆にいじめの描写は結構エグい内容を淡々と書いてなんだか普通の印象に抑えているのかも知れない。

いじめを取り扱っていて、しかも事件の万事解決一件落着なんて殆どの作品にないのに、妙に爽やかな読後感は、きっとこの作品の中で、主人公は家族だったりなんだかの、いじめと戦っていく仲間を手に入れたからかも知れない。