99%の誘拐/岡嶋二人

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)

少年時代に誘拐の被害者になった青年が、パソコン技術者になって徹底的なオタク技術を使った誘拐を行って復讐するお話。

割りに新しい文庫なのにラップトップとかカプラーとか公衆電話とか、やたら古いネタの詰まった話だなぁ、何か意味のある仕込みなのかと思って読んでいたんですけど、奥付みたら初出は1990年だった。Win95も発売されてなくて、パソコンは極々一部の金持ちマニアか技術者だけの持っているものだった時代に書かれたと思えば先鋭的なトリックを使った目新しいものだったのかもしれない。
いちおミステリなので詳細は割愛しますけど、内容にある目白押しなトリックがリハーサルもなく、「本当に出来る」のならかなりすごいと思う。
例えるならば、鉄道ミステリ乗り換えトリックなんかで「この広い駅で普段使っている人でも乗り換えに20分はかかる。彼は普段使っていないが、中学から陸上部で中距離の選手として国体にも出たしオリンピックの強化選手になった。きっと3分でも大丈夫だ!」で事件が解決してしまうようなぎりぎり無理なのがずっと続く。

よく、ミステリでは現実では悪用されたらマズイので肝心の部分がぼかして書かれていたり、普通ではありえない小道具や環境を用いた事件を書くと聞く。
しかし、それとは別に、生きた人間をフィクションとして扱っている以上、ある程度のリアリティが現代劇であれば尚更に必要なんじゃないかと思う。

正直、本編の主人公が犯人の誘拐劇よりも、前置きである、主人公が過去に誘拐される話の方が面白かったなぁ。

結局最後も、まんまと誘拐劇は成功して、身代金をせしめてしまう主人公。
過去父親の部下で主人公を誘拐した現在は自分の上司の男に「自分は間違っていたが、君も間違っている」と暗に諭されるけど、「どこが?」としらばっくれる始末。

優秀な人間が自信を持つのは構わない。物語として、犯人が主役というのも面白い。動機として過去被害者であるのは必然性がある。使われるトリックは多分実現不可能であるけれど、先鋭的で面白い。内容に不満もあるけれで、それ以前に結末がよろしくない。
フィクションだからこそ、悪者は裁かれる必要があると思うのです。
物理的な罰でなくても、後悔や後ろめたさなど。そういうものをまったく感じられない主人公の態度が気に入らなかったです。

ネタの料理に仕方が僕の好みではなかったようです。
舞台はくるくると変わるし、犯人である主人公、誘拐される少年、追う刑事、巻き込まれる過去主人公を誘拐した男、と視点がくるくるして疾走感はあると思うんですけどねー。

ん〜。