ねじの回転/恩田陸

ねじの回転 上 FEBRUARY MOMENT (集英社文庫)

ねじの回転 上 FEBRUARY MOMENT (集英社文庫)

ねじの回転 下 FEBRUARY MOMENT (集英社文庫)

ねじの回転 下 FEBRUARY MOMENT (集英社文庫)


面白かった!

舞台は東京、時代は1936年2月26日から始まって、1936年2月26日に終わる。
教科書にも載っている二・二六事件そのものを切り取った、タイムトラベルものSF。
まったく同じ説明の出来る「蒲生邸事件(宮部みゆき)」とはまた全然違ったモノですけど。
SF的なものは好きだけれど、SFってよく考えたら小説では100歩譲ってガンダムしか読んだことのない僕なので、ミステリの文法、学園モノの文法にあるような、SFの文法ってのがよくわからなかったんですけど、恩田陸だしってことで買ってみました。

近未来、国連は時間遡行技術を管理し、過去を修正するということを行っていた。
しかし、とある修正が未来の世界にとんでもない影響を及ぼしてしまう。
おかしな病気がはやりだし、感染したが最後、1日ほどで老衰で死んでしまうという病気。
世界の人口は億単位で減少して、WHOの人口予測を大幅に下降修正された。
そこで国連は原因となったと思われる歴史の修正を再修正する。
そのプロジェクトの一環に日本の1936年2月26日、二・二六事件が選ばれる。日本が太平洋戦争に盲進する原因となった事件といわれている。


とりあえず、物語がいきなり途中から始まるので少々面食らった。本の裏の解説を読んでいなければ最初の数ページはさっぱり???な展開が続きます、世界観が飲み込めたところで、物語はゆっくりゆっくり、汽車の車輪が動き始めるように回り始めます。
上巻の後半に向かって徐々に加速していって、最高速になったところで、下巻に続く。
しかし、下巻ではさらに加速する。しかも加速は汽車の車輪というよりも、幾重もの歯車のように絡まりあい、以前の何気ない描写、章の切れ目の入る意味のよくわからなかったモノローグや挿話が、一つの答えに繋がっていく。
僕は滅多に再読はしないんだけど、これはすぐにもう一回読みたいと思った。

多分「こういう意味だったのか!」とひざを叩く場面がいくつもあると思う。


SF的な設定は多少煙に巻かれているような気もするけど、そこをいちいち筋道たてて説明されても面白くなるとは限らないので、SFの世界と小道具を使った「男たちの物語」かな、と思う。これに出てくる主人公格は昭和の人間も未来の人間も魅力的で、人間的なのです。

運動すると疲れがとれる

名古屋市営のスポーツジムに行ってきました。
公営のジムは民間のと比べていくらなんでもそりゃないだろってくらい安すぎる。1回300円とかでできちゃうのでみなさんも行ってみるといいと思う。
ちゃんとトレーナーもいるしね。器具もよくわかんないけど、新しそうなのも色々ありました。ジョーバとかあったし。


さて、サイクリング(5分くらい)→ストレッチ(5分くらい)→筋トレ(背中、腕、腿、腹の4種)→ランニング(30分)→ストレッチ(軽く)という簡単なコースだったんですけど、これが普段パソコン仕事だと気持ちよくてしょうがない。
あと30分くらい何も考えずに走っていたかったんだけど、器具の使用は30分までなので、やめてしまいました。
前の仕事やめてからマウスより重いものなんて滅多に持たないから明日の筋肉痛が心配です。
会社の近くにあるとなぁ。定期券(月間1,200円)買ってジャージ会社に置いておいて夏とか仕事ヒマだから通うのになぁ。

99%の誘拐/岡嶋二人

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)

少年時代に誘拐の被害者になった青年が、パソコン技術者になって徹底的なオタク技術を使った誘拐を行って復讐するお話。

割りに新しい文庫なのにラップトップとかカプラーとか公衆電話とか、やたら古いネタの詰まった話だなぁ、何か意味のある仕込みなのかと思って読んでいたんですけど、奥付みたら初出は1990年だった。Win95も発売されてなくて、パソコンは極々一部の金持ちマニアか技術者だけの持っているものだった時代に書かれたと思えば先鋭的なトリックを使った目新しいものだったのかもしれない。
いちおミステリなので詳細は割愛しますけど、内容にある目白押しなトリックがリハーサルもなく、「本当に出来る」のならかなりすごいと思う。
例えるならば、鉄道ミステリ乗り換えトリックなんかで「この広い駅で普段使っている人でも乗り換えに20分はかかる。彼は普段使っていないが、中学から陸上部で中距離の選手として国体にも出たしオリンピックの強化選手になった。きっと3分でも大丈夫だ!」で事件が解決してしまうようなぎりぎり無理なのがずっと続く。

よく、ミステリでは現実では悪用されたらマズイので肝心の部分がぼかして書かれていたり、普通ではありえない小道具や環境を用いた事件を書くと聞く。
しかし、それとは別に、生きた人間をフィクションとして扱っている以上、ある程度のリアリティが現代劇であれば尚更に必要なんじゃないかと思う。

正直、本編の主人公が犯人の誘拐劇よりも、前置きである、主人公が過去に誘拐される話の方が面白かったなぁ。

結局最後も、まんまと誘拐劇は成功して、身代金をせしめてしまう主人公。
過去父親の部下で主人公を誘拐した現在は自分の上司の男に「自分は間違っていたが、君も間違っている」と暗に諭されるけど、「どこが?」としらばっくれる始末。

優秀な人間が自信を持つのは構わない。物語として、犯人が主役というのも面白い。動機として過去被害者であるのは必然性がある。使われるトリックは多分実現不可能であるけれど、先鋭的で面白い。内容に不満もあるけれで、それ以前に結末がよろしくない。
フィクションだからこそ、悪者は裁かれる必要があると思うのです。
物理的な罰でなくても、後悔や後ろめたさなど。そういうものをまったく感じられない主人公の態度が気に入らなかったです。

ネタの料理に仕方が僕の好みではなかったようです。
舞台はくるくると変わるし、犯人である主人公、誘拐される少年、追う刑事、巻き込まれる過去主人公を誘拐した男、と視点がくるくるして疾走感はあると思うんですけどねー。

ん〜。

プロデューサーズ

ミュージカル映画には目がない相方に連れられて予備知識なしに見てきました。
ブロードウェイを舞台にした、ミュージカルコメディ。
時代は1960年頃。いわゆる「古きよきアメリカ」かつてはブロードウェイの帝王で今は最低の落ち目のプロデューサーと、少年の頃ブロードウェイプロデューサーに憧れた今はただの働き蟻な会計士の出会いから、物語は始まる。
二人は出資者から金をしこたま集めて、それ程予算をかけずに、最低の脚本・演出・役者で上演し、一晩で打ち切りにし、配当を払わず、集めた資金を持ち逃げしようという計画を立てる。

芝居をやっていた人間としては、いくらコメディとはいえ、こんな話のままワハハと終わったら正直後味悪いなと思って見ていましたが、そんなことはなくショーは成功。
それはそれで主人公のたくらみはうまくいかずなんだか腑に落ちないなと見ていたら、そうもならず、にうまいこと、二人そろって「プロデューサーズ」としてブロードウェィに返り咲きました。めでたしめでたし。

この話、元々は映画としてできたものらしい。それを、舞台で演って、今回また新しい映画となったと。
ミュージカルの作劇上でも、観劇上でも良い点は感情の表現と時系列の省略と事象のイベント化だと思う。
主人公の一人である「元・ブロードウェイの帝王」マックスは、老い先短い老婆に春を売って資金を稼いでいるのだが、今回の資金集めでは物語上ニューヨーク中の老婆と寝たことになっている。
マックスもいい年のオッサンである。とても一晩では無理だし、シーンとして絵的にもだれも喜ばない。科白だけで表現するといかにも空ぞらしくなってしまう。
この作品では、数十人の老婆と、青空の公園の下、歌って踊って、フリの一つとして歌いながら順にドル札を受け取っていくだけで、うまいこと表現している。
これはミュージカルでしかできない消化の仕方だと思うし、これを唐突だといって楽しめない人はミュージカルは無理なんじゃないかなぁと思う。

あと、この手のコメディは、言葉を使ったジョークが多いので、字幕を読んでても「きっとここが面白いんだろうな」っていう訳しかついてなくて寂しかった。
韻を踏んでいたり、訛りをおちょくっていたりとかは中々ネイティブが通じるようにならないとわかりにくいよね。

ムーランルージュみたいな絵的な美しさはなかったけど、シカゴに垣間見たブロードウェイの匂いを感じられる面白い作品でした。
ブロードウェイ見たことないけど。

おひさしぶりです。
4月になったら暇になるかなーと思って、戦国無双2みんな大好き塊魂を買ったら面白すぎて、しかも相変わらず仕事もヒマじゃないしで、ネットとか知りませんなマサミです。こんばんわ。

戦国無双2(通常版)
みんな大好き塊魂

法月綸太郎 「法月綸太郎の冒険」

法月綸太郎の冒険 (講談社文庫)

法月綸太郎の冒険 (講談社文庫)

いわゆるミステリやサスペンスというものはいくつか読んだことがあるけれども、本格的な「探偵小説」というのは実は読んだことがなかったのです。
「名探偵」という主人公がいて、なぜか主人公の行く先々で殺人事件が起こるので解決するというやつ。

小説家であり、副業(趣味)として探偵(というか刑事捜査)をやっている法月綸太郎を主人公として短編集。
ただ、金田一少年的にふらりと向かった先で殺人事件が起こるというものだけじゃなくて様々な形態で起こるのが面白い。

王道の、「名探偵として招かれる」「たまたま行ったところで殺人事件が起こる」なんてのもあるんだけれど、「すでに犯人が逮捕されている事件の動機探し(しかも一人の友人との対話のみ)」だったりとか、「児童小説の2.5枚目みたいに「気になるあの子」にいたづらの犯人探しに借り出される名探偵」など、主人公は前編同じなのに飽きさせず楽しませてくれる。

ただし、あくまでこの本は「探偵小説」である。

この話の後には何も残らず、何も残さず。である。

教訓だとか感慨だとかそういうのもないし、話を通した主人公の成長とか飛躍とかそういうのもない。あくまで「事件が起こりました。名探偵の活躍で解決できました。めでたしめでたし。」という物語。

僕はこれはこれでよいと思うので、普通に面白かったと思いますけど、本から何かを感じたい人にはちょっと楽しめないものかもしれないな。
トリックや謎解きのロジックなんかがかなり楽しめたので今度は長編を読んでみたいと思う。

法月綸太郎シリーズ、なにか順番とかあれば誰か教えてください。

重松清「ナイフ」

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

別に新刊でもなんでもなくて、絶薬に重松さんが出てたのに興味を持って適当に手に取った一冊。
「いじめ」をテーマにした短編集。

ワニとハブとひょうたん池で
ナイフ
キャッチボール日和
エビスくん
ビタースィート・ホーム

の全5編。すべていじめの話。
主人公はいじめられっこだったりその父親だったり、その幼馴染でいじめの傍観者だったり。

全体的にこの作家の筆の癖なんだろうけど、淡々とした語り口で物語が進んでいく。いじめられっこという被害者の視点で淡々と進んでいくので、なんだかうすら寒いものまで感じます。
まったく初めて読む作家さんなので楽しみ方を見出すという楽しみもあったのですが、この作家の場合はオール一人称の曖昧系で話が進んでいきます。自分たちが心の中で普段考えていることを文章の体裁として整えるとなる感じで、非常に読みやすく、ハマりやすい作家さんでした。

短編集ですから、いじめを取り扱っているといっても事の起こりから万事解決までっていう学校ドラマみたいな展開にはならずに、作品ごとに切り取る部分は違うのですけど、いじめのどこかのポイントを切り取ってそこでの主人公や家族の変化を見せています。
そうすることで、「家族」というものもこの作家さんは語りたかったのかもしれません。
だから逆にいじめの描写は結構エグい内容を淡々と書いてなんだか普通の印象に抑えているのかも知れない。

いじめを取り扱っていて、しかも事件の万事解決一件落着なんて殆どの作品にないのに、妙に爽やかな読後感は、きっとこの作品の中で、主人公は家族だったりなんだかの、いじめと戦っていく仲間を手に入れたからかも知れない。